孤独にそっくり

開いている窓の前で立ち止まるな

セルバンテス『ドン・キホーテ』全巻を読んだ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/0/05/Don_Quixote_5.jpg/373px-Don_Quixote_5.jpg

こんにちは。
この夏の目標であった『ドン・キホーテ』全六巻を読み終えました。


世界文学史上最も偉大ともいえる作品をせっかく読んだのだから、たまには読書感想文でも書こうと思い立った次第です。
小学校のときは五味太郎先生の『さるるるる』で毎年夏の読書感想文を乗り越えていた自分が、この年になってまともに本を読むようになったことの感慨にも浸っています。
なんてったって全六巻という長編ぶり。総ページ数2620ページ!!(そんな多くもなかった。)
いまは読み終わった達成感に満たされています。

ドン・キホーテ』とは?

「騎士道物語」を読みすぎて狂人になったひょろひょろのおじいちゃんが、がりがりの馬に乗って騎士ごっこをするお話です。
どれくらい狂人かというと、風車を巨人に見立てて突進するくらい狂ってます。
この逸話は有名なので、様々な作品で引用されているのを見ますね。
さて、この作品は設定もぶっ飛んでいるんですが、小説の構造もややこしくて、「シデ・ハメーテ」という人物がアラビア語で書いた物語をセルバンテスが編纂した、というメタフィクションになっています。読んでいるとわかるんですが、突然物語が中断して、「ここから先の部分が見つからない」とかなんとか言い始めたりするので、面白いです。
なぜこのような形になったかというと、小説という形式の中に、「批評」を持ち込むためだといえるでしょう。
詳しくは、辻原登東京大学で世界文学を学ぶ』やミラン・クンデラ『小説の技法』、『ナボコフドン・キホーテ講義』(未読です)あたりを読むと、この本のすごさがわかるかもしれません。ドストエフスキーなんかも言及してるほど、西洋文学に多大な影響を与えた作品ですからね。

感想

まず、この本はとても読みやすい本です。
難解な哲学は出てきませんし、複雑な筋でもありません。
多彩な登場人物たちがおしゃべりをしまくる物語です。
前後編で多少性質は異なりますが、ほとんどが小さなエピソードの積み重ねです。
いくつかの伏線が張られることもありますが、だいたいすぐ次の章に解決を見ます。
そして、どのエピソードも機知に富んでいて、笑えます。
悲恋の話も多く登場しますが、それはそれで面白いですし、そんなときでもドン・キホーテと従士のサンチョ・パンサはひどい目にあってオチをつけてくれます。
気軽にサクサク読めました。

前編は、ものすごく下品というか、汚いところも多々あって(例えばサンチョ・パンサドン・キホーテにしがみつきながら排泄したり、怪しげな薬を飲んでゲロを吐いたりする)、僕はゲラゲラ笑いました。
そういうお下劣なユーモアを狂った郷士と愚鈍な従士のコンビが淡々と演じていくのが面白いです。このドン・キホーテという人物は、騎士道物語が絡まない限りはとても理路整然としていて含蓄のある言葉をしゃべりますが、そのギャップがまたいい。
後編になると、前編がすでに世に出回っているというメタな状態なので、ドン・キホーテサンチョ・パンサのことを世の中の人たちはみんな知っています。
なので、二人をとことん痛めつけようとするのですが、それがあまりにひどいので、かわいそうになってきます。
いったい清く正しいのは狂気に見舞われている人間なのか、それとも普通の人間なのか、それすらあいまいになるわけですね。
あと、後編ではサンチョ・パンサが愚鈍なキャラというよりは、鋭い観察眼を持ったキャラになっていくので、それもまた面白いです。
島の領主になってからの裁判のくだりは読んでいて、関心するとともに、今までのあほ具合とのギャップに笑えます。

全体を通してみると、とにかく笑える本であること、そして、時として胸に突き刺さるような的を射た言葉が書き連ねられている人生の書だといえるでしょう。
特にドンキホーテの言葉には、感心させられるものがたくさんあったので、メモでもしておけばよかったと思いました。

ドン・キホーテの最期

前編は突然ぶつ切りで話が終わったような印象を受けましたが、後編の最後では、ついにドン・キホーテが死を迎えることで、物語が本当の終焉を迎えます。
個人的には、この最期があまりにもあっけなさ過ぎたような気がします。
ドン・キホーテは今わの際で、正気に戻り、騎士道物語で狂人になっていたことを悔いています。
これは、もともとが騎士道物語への批判として書かれているこの『ドン・キホーテ』という物語的には既定路線な終わり方だと思います。
しかし、僕としては、その狂気がいつの間にか社会に与えた影響、現実との対比、そういうことを考えたときに、ドン・キホーテの狂気は悔いるべきものだったろうかと思ってしまいます。
どうしても、アウトサイダー的な文脈で読んでしまいます。
例えば、ニーチェゴッホニジンスキーのように、狂気のうちに死んでいく。
周りの人間たちには「私はもはや狂人ではない。私は悔いている」と言いながらも、自分の裡では、まだ騎士道物語を現実だと思って死んでいく。
そんな終わり方を期待していました。
何しろ現実はつらく厳しいものですし、他人はあんなにも残酷だったのですから。
正気に戻ったところで、救われるでしょうか?

今後の予定

以上で、終わりです。
今は、ドン・キホーテから解放?された喜びで、ブコウスキーパルプ』とショーペンハウアー『幸福について』を読み始めました。
読むべき本はまだまだたくさんありますから、とりあえず積読しているものを少しずつ崩していきたいと思います。

ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)

ドン・キホーテ 全6冊 (岩波文庫)